おつまみ更新:ラフィアの翼14

2015.11.26 21:04|小説・詩
 父親の姿を見送ったレクシオは、隣に座っている幼馴染を振りかえった。彼女は未だに拳を握りしめ、厳しい目でテーブルを睨んでいる。自分と同じで、かなり混乱しているはずだ。ステラの胸の内を察したレクシオは、ぐっと眉をひそめたが、直後に大きく息を吸う。
 今、ここで留まっていても何にもならない。息子の要求があったとはいえ、あまりにも辛い十二年前の真実をヴィントが語ったことは、無駄にしてはいけないと、少年は思っていた。
「ステラ」
 レクシオがそっと名を呼ぶと、ステラは顔を上げた。
 続ける言葉に悩む必要はない。言うべきことは、するりと少年の口から出ていた。
「おまえは、どうしたい?」
 ステラは、目を瞬いた。握りしめていた両手をそっと開いて、見つめている。
「あたし、は?」
 彼女は恐る恐る反芻していた。レクシオは、ただ静かにうなずいた。
 これからのお互いの関係がどうなるのか、まったく分からない。これまで通り友達でいられるのかどうかさえ、レクシオには見当がつかなかった。だからこそ、今はステラの気持ちを優先したかった。このときに、自分たちの気持ちに決着をつけるべきなのは、イルフォード家の者たちなのだ。
 自分と父の関係の決着は、また別のときにつければいい――少年は、そう思っていた。
 ステラはしばらく黙っていた。が、やがてそっと口を開く。
「あたしは……兄上と、話がしたい」
 微かな言葉を聞いて、レクシオは眉を上げた。意外だと思わなかったし、驚きもしなかった。ただ、不安があるのだ。今の話を聞いたラキアスが、どのような反応をするのか――と。
 ステラは、ぎゅっと唇を引き結んでレクシオの方を見ている。彼は、わざとおどけてみせた。
「いいのか? あの兄さんのことだ、素直には聞いてくれないかもしれないぞ」
「……あたしはそれでも、伝えたい。事件の真実も、父上の言葉も」
 返事はきっぱりとしていた。改めて見れば、ステラの顔にはいつもの生気が戻ってきている。色々あったが、ようやくふっきれたのだろう。レクシオは肩をすくめた。
「そうか。なら、いっちょ戦いに行くか」
「大丈夫よ。レクが何かされそうになったら、あたしが守るから」
「いやー。そりゃ恥ずかしいから、自衛できるように頑張るわ」
 久し振りに軽口を叩いた二人は、小さく笑ってから、それぞれのカップに手をつける。そして、ヴィントが残していった小銭を握りしめ、会計に向かった。
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おつまみ更新:ラフィアの翼13

2015.11.24 19:44|小説・詩
 レクシオの耳に、さざ波のような人々の声が飛びこんできた。喫茶店の喧騒を聞いて、彼は我に返る。はっと顔を上げて、目の前の父親を見つめた。
 過去を語り終えた父は、腕を組み、目を閉じて、身じろぎひとつせず座している。それを見て、レクシオは恐る恐る口を開いた。
「……冗談だろ、と言いたいところだけど、親父に冗談は似合わないな」
 すると、ヴィントは半分ほど目を開けて、少年を見る。
「俺は本当のことしか言っていない。そして、これで全部話し終えた」
「相変わらず愛想ねえなあ」
 レクシオはため息をつく。それから、堪らなくなって頭を抱えた。平静を装ってはいたが、本当はかなり動揺していた。
 殺されかかった自分を守るために、父親が恩人を殺した。なんと、おぞましい話だろう。それに、ヴィントの話が真実ということは、ディオルグとリーシェルの死の責任は、レクシオにもあるということだ。
「……つまり」
 自分の髪をぐしゃりと掴んで考え込んでいたレクシオは、震える声を聞いて顔を上げた。隣に座っている幼馴染の少女が――親の敵と向かい合っているステラが、蒼白になってヴィントを睨んでいる。
「父上と母上は、皇帝陛下の命令であなたたちを殺そうとした。それで、レクを守るために、あなたは二人を殺した――と?」
「そうだな。さらに言えば、ディオルグは貴様ら兄妹を守るために、あえて剣を取ったんだ」
 ヴィントが、身も蓋もない言葉を添えた。ステラは歯を食いしばってうつむく。膝の上で、骨が白く浮き出るほどに強く、拳が握り締められている。
 彼女の様子を、レクシオは黙って見ていた。
 彼らの前に座っていたヴィントが、唐突に立ち上がる。レクシオがそちらを見ると、彼は小銭をテーブルに投げながら、言った。
「この話をどう捉えるかは、おまえたち次第だ」
 ステラとレクシオの返事を待たずに、ヴィントはくるりと背を向けた。そのまま歩き去ろうとする父親に、レクシオは反射的に声を上げる。
「親父!」
 声に止められたヴィントが、少しだけ振り返る。
 変わらず無愛想な彼に向け、レクシオは声を絞り出した。
「……ありがとう」
 相手の、緑の目が見開かれる。だが、わずかに感じられた驚きは、すぐに消え失せてしまった。
「俺は、おまえたちに頼まれたから話しただけだ」
 ヴィントは再び背を向け、今度こそ歩いていく。レクシオは、十二年前と変わらないその姿に、思わず微笑を浮かべていた。

グラブル一周年

2015.11.22 14:01|日常
 こんにちは、七海です。休日をごりごりのびのび過ごしています。

 さて。突然ですが、グランブルーファンタジーを始めてから約一年が経ちました。
 始めてから一番にやったイベントが『救国の忠騎士』。終了間近に飛び込んだ上に、ルールがまるで分からないまま進め、ストーリーすら完走できずヴェインも取り逃したという苦い思い出があります。

 その『救国の忠騎士』が復刻したので、ごりごり進めていました。前回の失敗を取り戻すような勢いでプレイし、今の私にできる範囲はやりつくしました。ソフィアとヴェインを常に編成。結構楽しいです。
 そんな具合で、気が付いたらヴェイン獲得していました。あ。
 ストーリーも全部見られたので大変満足です。凄くいい話でした。伏線の巡らせかたとか、黒幕の本性むき出しのシーンとか。今までのイベントの中でも秀逸なんじゃないかと思います。人気が高いのもうなずけますね。

 後もうひとつ。すっかりスルーしていましたが、何日か前に『ラフィア』を投稿サイトの方にあげていました。
 過去編終わった! 長かった!! 重かった!!!
「守り人」シリーズみたいに、単純にヴィントが話している感じで進めた方が、楽に収まった気もします。でも、後悔はしていない。
 現在、第五章を執筆中です。過去編に比べたらさくっと書き終わると思います。

 これからもぼちぼちと、書いたり描いたりしていきますのでよろしくです。
 ご来訪、ありがとうございます。

おつまみ更新:ラフィアの翼12

2015.11.16 19:52|小説・詩
 翌日の早朝、親子は起きて早々荷物をまとめ、宿屋を引き払った。文字通り逃げるような態度に宿屋の主人は不思議そうな顔をしたが、何も詮索はしなかった。
 街で買えるだけの物を買うと、二人は街と外を繋ぐ門の前に立った。先頭を行っていたヴィントは足を止め、自分の息子を振りかえる。彼は、暗い目をしてうつむいていた。
「心は決まったか、レクシオ」
「……うん」
 レクシオは、ヴィントが予想していたよりもしっかりとした声で答えた。それから顔を上げ、まっすぐに父を見据える。ヴィントはそのまなざしに驚いた。
 強く鋭い、しかし奥底に純真さを秘めた目。自分に似て、自分にはないものを持つ息子が、そこにいた。
 ヴィントは無表情で麻袋を取り出す。昨日レクシオに見せたものだ。袋がゆれると、中の銭がじゃらじゃらと音を立てた。男は無言で幼子に袋を差し出す。
 レクシオは、小さな袋をしばらくじっと見た。そしてやがて――手に取った。
「ありがとう、父さん」
 舌足らずな口調で紡がれた言葉は、ひどく大人びていた。
 力強い息子の態度に微笑んだヴィントは、すぐに笑みを消して言った。
「もう、俺のことを父親だと思わなくていい。おまえはおまえの道を行け。おまえが、選んだ道をな」
 レクシオは静かにうなずく。そして、一歩を踏み出した。
 顔を歪めてしばらくためらった彼は、やがて振りきるように走り出し、父親だった男の脇をすり抜けていく。
 すれ違いざま、彼は囁いた。
「父さんは、父さんだよ。でも今は――さようなら」
 十にもならぬ子供の声ではない。小さな子が、束の間立派な男に見えて、ヴィントは目を見開いた。思わず、弾かれたように振り返る。
 だがその頃には、レクシオの背中は遠く道の向こうにあった。ヴィントはしばらく、無言で駆け去る子を見つめていた。
 だが、その姿が地平線に消えたとき、彼もまた歩きだした。
 お互い、背負うものは何もない。男と子供は、それぞれの道を歩き出した。

 十二年後の再会など、想像もしないままに。

ぎりぎり更新

2015.11.15 20:32|更新情報
 こんばんは、七海です。
 週休三日制だったらいいのになと切実に思います。

 AZURE第3話、やっとこさ終了いたしました。コミックルームの情報更新はまた来週にでも。
 ぎりぎりです。かなりぎりぎりです。まさかデータ化がこんなに時間かかるとは思いませんでした……。くそうなめてた。
 最後のページはむちゃくちゃ頑張りました。今までの漫画作業で一番がんばったんと違うか? しかし、遠近法がおかしい気がします。ウェブ漫画なので、愛嬌ということでスルーして下さるとうれしいです(おい

 内容にちょっと触れますと……最後の最後で伏線はりまくった感じになりました。
 最初はおバカで終わる予定だったんですけど、なんかこうなってしまいました。頭から尻までギャグの話って、かえって描きにくい気がします。
 ケルブ殿はこれで一旦退場です。また出番きますが、結構先です。それまでには弓矢をちゃんと描けるように、技術と資料の向上をしておきます。
 次回はいよいよエルフォード入りです。ひぃぃ街だあ!

 ついでに50題更新しておきました。随分前に書いたものですが、3話の後日談だったので、今までずっとフォルダ―の中に眠っていた代物でございます。といっても大した内容ではございませぬ。

 また明日から学校ですな。
 来週は、公募漫画やら小説やらイラストやらをしたいなーと思っています。週休三日制ー!

 ご来訪、ありがとうございます。
 サイトのリンクミスなどありましたら、報告をお願いします。

おつまみ更新:ラフィアの翼11

2015.11.14 17:46|小説・詩
 ヴィントは、頬を緩めるレクシオを横目に、黙って自分の寝台に腰かけた。それから、黙って荷物の整理を始める。レクシオはしばらく寝台の上をごろごろと転げまわっていたが、やがては黙り込み、父親を見据えていた。
 静かな時が流れる。床や天井が軋む音と、荷物を探る音しか、聞こえていなかった。
 街に着いたころには天中を少し過ぎていた陽が、西へと沈み始めた頃。ヴィントはふと、手を止めた。未だ自分をじいっと見つめている息子の方に、目をやる。
「レク」
 ヴィントが静かな声で名を呼ぶと、レクシオは「なに?」と言って顔を上げた。ヴィントはふと姿勢を正すと、彼の方をまっすぐに向く。
「おまえはこれから、どうしたい」
 すると、レクシオの表情が動いた。きょとんと目を丸くして、首をかしげる。
「どうしたい、ってどういうこと?」
「俺についていきたいか?」
 訊かれたレクシオはますますわけが分からないという顔をした。そこでヴィントは、思い切ってきっぱりと言った。
「――人殺しの俺に、ついていきたいと思っているか?」
 ヴィントは、鋭い目で息子をにらんでいた。自分でも気づかないうちに、全身から冷たい気配を漂わせる。レクシオは顔をこわばらせて、ぴたりと硬直した。
 お互い、しばらく睨みあったあと、レクシオが動いた。体を起こして寝台の上に座り、姿勢を正して父を見たのだ。
「……父さん」
「おまえは、俺を怖いと思っているだろう? あの日から、ずっと」
 ヴィントが言うと、レクシオはぎゅっと眉をひそめる。何かを堪えるように歯を食いしばった。
「ち、ちがうよ! 父さんが本当はすっごくやさしいって、知ってるもん……」
 顔をくしゃくしゃに歪めるレクシオを見て、ヴィントはふっと微笑んだ。
 息子の心遣いが嬉しかった。
 だが、ヴィントは分かっていたのだ。息子が心の底で、自分をどう思っているのか。あの雪の日に、差し出された手を拒まれたとき、悟ってしまった。
「隠す必要は、ない」
 レクシオが今にも泣きだしそうだった。ヴィントはそれに気づいていて、あえて無視をした。
 小さな鞄の中から、銭入れ用の小さな麻袋を取りだした。
「俺と一緒に行きたくないと思っているなら、それで構わない。そのために今日まで、一人で生きていくための手立ては教えてきたつもりだ。おまえ一人なら一月は食っていけるだけの金も蓄えてある。だから」
 レクシオの顔は、うつむかれていて見えない。窓から差し込む夕日のせいで、その姿さえ影に沈み込んでいる。ヴィントは淡々と、言葉を投げた。
「自分がどうしたいか、明日までゆっくり考えろ」
 返事は、なかった。

おつまみ更新:ラフィアの翼10

2015.11.12 19:44|小説・詩
 ヴィントは、息子の興奮が冷めるのを待って、後始末を始めた。
 まずは、自分の傷口と、ついてしまった血を洗った。それから遺体の始末である。とはいえ、多少血や汚れを落とす程度のことで済ませてしまった。埋葬などの、後のことはイルフォード家の者たちに任せるべきだろう、と思ったからである。
 一連の作業を、ヴィントはてきぱきと終えた。しかし、手際がいいというよりも、無心になろうとして無理矢理作業に没頭しているようなものだった。その間、興奮がすでに引いていたレクシオは、焦点の定まらない目で、ぼうっと父の姿を追っていた。
 遺体の汚れを簡単に取って、端の方に移動させたヴィントは、雪の上に膝をつき、膝頭で手を合わせて短い祈りを捧げた。それから立ち上がると、呆然としているレクシオへと歩み寄る。
「――行くぞ、レク」
 彼はそう言って、手を差しだした。
 いつものレクシオならば、喜んでその手を取っただろう。だが、この日の彼はいつもと違った。顔をこわばらせて、びくりと震え、身を引いたのである。
 ヴィントは、手を差しだした状態のまま沈黙した。――レクシオの内心が、透けるように分かってしまう。手を握りしめかけた彼は、だがすぐにやめた。
「行くぞ」
 もう一度言って、強引にレクシオの腕をとる。すると、彼はようやくうなずいた。
「……うん」
 耳が痛くなるような静寂の中、彼らはゆっくりと歩き出した。

 元々、シュトラーゼは出歩いている人が少ない。加えて、人の話し声も先の戦いのようなやかましい音も、すべて雪が吸収してしまうかのように、他人の耳には届きにくい。だからヴィントとレクシオは、追跡に遭うことも誰かに姿を見られることもなく、街の外へ出ることができた。
 しんしんと冷える冬の道。二人の親子は、沈痛な空気を漂わせながら歩いていた。

――それから、いくばくかの時が経った頃。ヴィントたちは大きな街にいた。北部と中央部を繋ぐ山道を抜けた先の街である。これからその山道に入るという人たちが必ず立ち寄る街なので、道案内や土産物屋といった商売で成り立っているようであった。
 ヴィントは、街に着いてすぐ、その日の宿を取った。街で一番安いぼろぼろの宿屋だが、屋根があるだけましだった。
 シュトラーゼを出てしばらく、二人はさまざまな仕事をこなした。荷物の配達から用心棒まで、人を選ばないのであればどれほど給料が安い仕事でもやった。その上、極力節約しながら逃げてきていたため、手持ちの金は少なくない。
 シュトラーゼに来る以前も多少は仕事をしていた。しかし、人目につくのを恐れて、おおっぴらには動かなかった。それが今回、狂ったように仕事をこなしたのは――ヴィントの胸の内に、ある考えが浮かんでいたからだ。
 狭い部屋に入り、しつらえられた二つの寝台を見ると、レクシオの顔が輝いた。
「うわあ! 久し振りのベッドだあ!」
 嬉しそうな声を上げると、彼は勢いよく寝台に飛び乗る。
 寝台は固いし、薄汚れているし、決して寝心地のいいものではない。だが、ずっと油紙やら服やらに身を包んで寄り添って寝ていた者にしてみれば、まともな寝床というだけで天国なのである。
 ヴィントは、頬を緩めるレクシオを横目に、黙って自分の寝台に腰かけた。それから、黙って荷物の整理を始める。

髪切りました。

2015.11.08 17:28|更新情報
たんぱつ
 シエルを短髪にしてみた。誰だか分からなくなった。
 ちなみに、アニメ塗り落書きに飽きたので、新しい塗り方を模索しはじめました。本格的なアニメ絵描きたい。でもペンタブがない。

 こんばんは、七海です。髪を切ってきました。
 四月と大体同じ感じの短い髪になりまして、首がすーすーします。風邪をひかないよう、気をつけます。

 さてさて、本日はAZUREの原稿を進めました。
 切れ味が悪くなってきた刃を無理矢理使って、トーンワーク。ケチるなよ! と何処からか声が聞こえてきそうです。
 あああ本当にWEB漫画はトーンをデジタル作業にしたい! 卒業近くなったらペンタブ買おうか、いやいっそクリスマスか……と、めまぐるしい計算を巡らせております。
 なんだかんだで公募漫画も途絶えることなく描き続け(つまり作業速度が遅い)、こちらもちょうどトーンワークに入ったので、どうしてもトーンとカッターの刃をケチりたくなります。
 もうちょっとで、AZURE更新できそうです。来週になりそうです。

 今週更新ができなかったので、代わりといってはなんですが、50題を一本追加しました。久々!
 随分前に書いたお話です。「なろう」さんでは、ラフィアの最新部を更新していないので、公開するか迷いましたが、「ブログには上げてるからまあいっか!」と思って公開しました。つまりラフィアのネタバレ注です。

 来週はできたら、イラストを描きたい! と言うか描く! と思っているところです。
 もう平日はほとんど描かない前提になってきております。本当は描きたいんですよ。

 ご来訪、ありがとうございます。

おつまみ更新:ラフィアの翼9

2015.11.07 20:18|小説・詩
 互いの剣が、時に高く時に低く、すさまじいうなりを上げる。じりじりとこすれ合う刃の間から、一条の光と見まごうほどの火花があがった。やがて放たれる慟哭とともに、鋼の剣が魔の剣を圧倒し始めた。強い圧迫感に、ヴィントは顔をしかめる。
 喉の奥でうめいた彼は、ふいに悟った。
――このままでは押し負ける。
 判断してしまえばヴィントの行動は早い。彼は咄嗟に得物を手放すと、その瞬間に地面を蹴って後ろに飛んだ。刹那、実体のない剣が砕かれる。硝子のような音を立てて割れた剣は、粉々になって虚空に舞い散っていった。勢いよく振り下ろされたディオルグの剣が空を切る。
「なっ……!」
 驚きに目をみはったディオルグはすぐさま剣を引いたが、体勢を立て直すまではいかなかった。ヴィントは無言で魔導術を展開し、掌に巨大な氷の刃を生み出す。そして相手に向かって投げつけた。一連の動作は一瞬のうちにして行われた。
 氷の刃は、まっすぐにディオルグへと飛んでゆく。彼が剣を構えなおそうとする頃には、冷たい凶器は目前にあった。やがて、冷徹な輝きは彼の胴を狙い――
 ディオルグは、横合から何かに突き飛ばされていた。
 氷は勢いを止めることなく「何か」に突き刺さる。肉を切るような音が生々しく響き、赤い鮮血が飛び散った。
 突き飛ばされたディオルグは、体を起こして――硬直した。顔が衝撃と恐怖に彩られ、切ない程に引きつっている。魔導術を放ったヴィントでさえ驚き、その場に立ちすくんでしまった。
 ヴィントの対面にいたのはディオルグではなく、一人の女性だった。氷の刃の一撃を胸に受けて、血を流している。
「なぜ、おまえが来たんだ」
 ヴィントの問いに、彼女は答えなかった。生きているか死んでいるか、それすら分からない。だがどの道、彼女は死ぬだろう。
 ヴィントは静かに目を細め、ディオルグは強く拳を握った。
「…………リーシェル」
 異口同音に紡がれた名は、誰にも届かず消えていく。
――リーシェルは恐らく知っていた。夫が何を命ぜられ、どういう道を選んだのか。本人から聞いたか、自分で推測したかは分からない。でも確かに、知っていたのだろう。
 でなければこの場に現れはしない。
 ヴィントは、動かなくなった女騎士を見下ろし、すぐに顔を上げた。彼女の横には夫が立っている。剣を構えて立っている。
「もう――終わりにしよう」
 ディオルグは、言った。ヴィントもうなずいた。
「この一合でどちらかが生き、どちらかが死ぬ。それだけだな」
 ディオルグが剣の切っ先をしかとヴィントに向ける。一方ヴィントは、再び手の中に魔導術の剣を生み出した。刀身は、先程のものよりも明らかに強い光を放っている。魔力が空気を震わせる音が、じかに聞こえるのではないかというほどだった。
 二人は、じっとお互いを見た。お互いの目を。
 どちらも賭けているものは同じだ。自分の命と、家族の命。
 違うのは当人の立場と思いの形だけ。
 二人は息を吸うと、鋭い蹴りで地面を打った。それぞれに、急所めがけて得物をひらめかせる。
 やがて、雪の舞う灰色の空に、赤い飛沫が舞い踊った。

 吹き荒れる風はふいに止んだ。
 無音の時が続いた大地に、やがて微かな音が戻ってくる。低くうなる、風の音。雪を纏いながら吹く風は、変わらずシュトラーゼの街を流れていた。
 それ以外の音がすべてかき消される、雪の中。ヴィントは膝をついていた。震える手を辛うじて動かし、魔導術の剣をかき消す。
 脇腹の刺すような痛みに、ヴィントは顔をしかめた。腹をおさえる手が生温かい。血が出ている。彼の横の雪には、赤い血が染みていっていた。ヴィントはそれでもどうにか体を動かそうとした。
 どさり。
 彼の背後で物音がした。彼は別段、驚きはしない。
 振り返ろうとは思わなかった。ヴィントは引きずるように体を動かし、未だ眠っている息子の方へ行った。小さな体にそっと触れる。かなり冷たいが、まだ息はあるようだ。ヴィントは急いで、身にまとっていた外套を脱ぎ、レクシオの体をくるんだ。裂けて血がついている部分が当たらないように、注意しながら。
 一通りの作業には、一分もかからなかった。ヴィントはほっと息を吐く。
「ヴィント」
 声が聞こえた。小さく、かすれた声だ。ヴィントはようやく、自分の背後を振り返った。
 雪の中にディオルグが倒れていた。彼の周りには腹の傷から流れ出した血が溜まっており、さながら血の池のようである。それが何を意味するのか、ヴィントに分からないはずがなかった。
 男は、再び体を引きずるようにして、瀕死の騎士の前に来た。己よりいくらか若い顔をのぞきこみ、その疲れ果てたような有様に顔をしかめる。
「……そんな顔、するなよ」
 ディオルグが言った。ヴィントは答えず、ただ息を吸う。
「当然の結果さ。因果応報というやつだ。俺たちは、触れてはならぬものに触れた。理由や経緯がどうあれ、な」
 イルフォード家の騎士は笑う。死の間際にあるとは思えないほど快活で、爽やかだ。彼らしい笑顔だと、ヴィントは思った。
「なあ、ヴィント・エルデ」
「……なんだ」
「ひとつ、頼まれちゃ、くれないか」
 細い息をはきだしながらディオルグは言う。ヴィントは否定せず、その場から動くこともしなかった。目を細めて、言葉の続きを待つ。やがて、若い男の口が動いた。
「おまえは、レクを連れて、すぐにここから、離れるだろ? けどよ……もしまた、『ウチ』と関わることがあったら、面倒、みてやってくれ。リオンの。それから、ラキアスに、ステラ、の……」
 今までほとんど聞くことのなかった名を聞いて、ヴィントは微かに眉を動かした。だが、何も言わなかった。すると、ディオルグがぎゅっと眉を寄せ、うめき声を漏らす。それでも彼は、続けた。
「厚かましい、お願いだってのは……分かってる。けど、もう……心の底から信じて、頼める奴、なんて……家族とおまえ、くらいしか、いないよ……」
 弱々しい言葉に、ヴィントは目を見開いた。自分の手が震えているのに気づかないふりをして、ディオルグを見つめる。
「信じる? 信じると言うのか、この俺を」
 ヴィントは幻聴でも聞いたかのような思いで問いかけていた。
 夫婦を傷つけ、恩をあだで返すような真似をした自分に。自らの子を託すようなことを言う。その心情が、男には理解できなかった。正気の沙汰と思えなかった。
 だがやはり、騎士はいつものように笑うのだ。
「信じるよ。おまえ……義理堅いからなあ……」
 ディオルグは穏やかな表情で言う。光のない目が、静かに降る雪を見つめていた。ヴィントは口を開き、すぐ閉じる。だがやがて、力の抜けたディオルグの手をぎゅっと握った。
「――分かった。もしもまた、この家と縁ができたなら……そのときは、約束を果たそう」
「約束、か」
 いいな、それ。ディオルグは乾いた笑声を漏らすと、うつろな瞳をヴィントに向けた。
「ごめんな……。おまえたちのこと、大好きだったのに。レクにも、謝っといてくれ……」
 血が流れる。微かな脈の音が伝わってくる。
 だがそれは、どんどんと弱まっていっていた。最後の一瞬は、近づき――
「おまえたちとの生活、楽しかったぜ。ヴィント」
 騎士を、のみこんでいく。
 悟った男は、ふっと――微かに笑った。
「俺も、少しだけ……楽しかったぞ、ディオ」
「ああ――」
 そりゃ、よかった。
 動いた口から、声は出なかった。
 風が吹き抜ける。ディオルグの様子は、先程とまったく変わらなかった。だが、死んでしまったのだと、ヴィントはすぐに分かった。脈の音も、その振動も、もう感じない。
 ディオルグもリーシェルも、いないのだ。
 ヴィントはゆるゆると首を振り、立ち上がる。いつの間にか、わき腹の傷口は固まりかけていた。じくじくとした痛みだけが残り、小うるさい主張をしている。ヴィントは、痛みを忘れようとするかのように、あらぬ方向を見た。
「父、さん……?」
 ふいに、声がした。子供の震える声だ。自分に最も近い、子供の。
 ヴィントは背筋が凍るような感覚を覚える。だが、いつもの無表情で押し殺し、そっと背後を見た。少し離れたところで、レクシオが体を起こしていた。蒼白い顔でヴィントの方を見ている。目が合った。――と、同時に、幼子の顔が引きつった。「え?」と小さな声が漏れる。
 大きな緑の瞳が、ゆっくりと泳ぎ、ヴィントと――さらに向こうの遺体を捉えた。
「ひっ!!」
 レクシオが引きつった悲鳴を上げる。ヴィントは何も言わなかった。
 小さな体が、ぶるぶると震えている。やがて、震えが強くなって、先ほどよりも目の焦点がうつろになった。彼は、自らの体をかき抱きながら、恐怖と悲しみに彩られた目を父へと向けた。
「なん、で?」
 向けられる問いは、か細く、かすれている。ヴィントは目を伏せた。何故、という単純でまっすぐな問いに、答えられるだけの言葉を見つけ出すことができない。
 ディオルグとリーシェルの方をちらと見た彼は、それからふう、と息を吸い込んだ。途端、心が沈みこむように冷えてゆく。ただ鋭くなった目を、彼は息子へ向けた。
「俺が殺した」
 放たれた言葉は、舞い散る雪にも劣らぬ冷たさだ。
 レクシオは、氷の矢に射られたかのように身を竦め、顔をこわばらせる。両目に涙が盛り上がっていた。
「あ……」
 レクシオが頭を抱えた。目覚めたときよりさらに血の気が失せた顔を、さっとうつむかせる。彼はひたすらに震えていた。「あ、ああ……」と――放たれる声は、どんどん強くなり、やがて緑の両目に激情が走る。
 少年の慟哭が、イルフォードの街を引き裂いた。

進捗とゲームな話

2015.11.01 17:15|創作話
 こんばんは、七海です。明日一日だけ出てまた休み、という変な日程です。

 今日はいろいろやったり漫画進めてみたり。
 AZUREはトーン貼り前半戦が終了しました。今度の日曜日に更新……か、その次の土曜になるかもしれません。これまでより一回の更新量がやや多いのですが、いよいよ3話終わり! というところなので、真剣に頑張ります。

 グラブルはシュヴァリエをひたすら殴っていましたが、HARDを3回やって収穫はアニマ一個(マグナアニマ)だけ。なんなんですかね。シュヴァリエさんはけちんぼなんですかね。ティアマトは一回で二個くらい落としてくれるのに。
 これでは、なかなか光属性キャラの強化がはかどりません。光属性はキャラ数少ないので、あまり負担にはなりませんが。
 そういえば昨日レジェンドガチャを引いたら、またキャラが結構出ました。
 マリー、カルティラ、クラリス、エアロバイス……だったかな? 最近、火・風属性に恵まれすぎていて怖いです。
 ようやくマリーさんが仲間になりました。スィールとのクロスフェイトが見たいので、ぼちぼち育てていきます。

 そして。ドラクエⅧプレイ感想を書いておこうかと思います。
 ずばり、私の知ってるドラクエじゃない。グラフィックが冗談じゃないかと思うくらいきれいですし、ついに声までついてしまいましたしね! どの声も、どことなく鳥山明作品な雰囲気が出ている気がする!
 グラフィックがきれいなのはいいんです。町も洞窟も、創作資料にしたいくらい細かいです。けど、めちゃくちゃプレイしづらいです。マップ見ても今どこにいるか分からない。あと、移動が十字ボタンだと思って押したら視点移動だった、というのを何回もやらかしております(ジェネレーションギャップ)。慣れるまではかなり厳しそうです。

 ドラクエは……魔物の強さとか、情報のちりばめ方とか、色々シビアです。それでも小学生のときの私がなんとか完走できたのは、操作の単純さのおかげでした。多分。あの頃、3DS方式でやれと言われたら投げ出していました。
 だから、今回のプレイヤー視点の画面は厳しいなと思います。3DSだから仕方ないんだと思うんですが。ポケモンもそうだったし。
 今の子供のスペックはすげえ……。

 ストーリーの方は序盤なのでまだ分かりませんが(8未経験ですし)、とりあえずドラクエらしい「導かれるままにやってりゃ進む」という方式を楽しんでおります。
 今は本当に序盤の序盤、水晶をとりにいくところです。が、洞窟の小ボスで一回全滅しました。
 えー……。
 勘が鈍っていたのか、もともと下手なのか。いずれにしろへこみました。
 頑張るぞリベンジマッチ。

 いろいろやることがあるので、休日限定で進めます。

 以上、長々と書いてしまいました。失礼しました。火曜日は小説がんばるよ。
 ご来訪、ありがとうございます。
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蒼井七海

Author:蒼井七海
なんか周りにオタクといわれてしまう社会人見習い。
少年漫画、ファンタジー、ネコが大好き。中学生の頃から息(だけ)長く創作サイトの運営やらなんやらしながら、漫画家を目指しています。
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