KOLおつまみ更新9

2017.06.10 16:15|小説・詩
本編はこちら
http://ncode.syosetu.com/n3552bw/



 あふれ出した白光は、いつか見た魔法の光よりも、ずっと強烈だった。晴香は叫ぶと同時に目を覆って、祭壇から転がり落ちるように逃れた。それだけのことができただけでも、奇跡と思える。そして続けて、兄を呼ぶ声が、無意識のうちに漏れていた。
 光はほどなくして消え去った。それでもまだ、瞼の裏に焼きついた白がとれない。しばらく、ぎゅっと目をつぶっていた晴香は、目の奥に漂う光が薄らいだところで、そっと視界を開いた。薄黒い闇に包まれていた『聖墓所』の中の風景が、しだいに、先程までと同じように色と形をともなう。
「晴香さん、大丈夫ですか!?」
 ノエルが駆けよってきた。自分がへたりこんでいることに気づいた晴香は、乾いた笑いをこぼしながらも、大丈夫、と答える。ようやく心が落ちついてきて、同時に疑問がわいてきた。何があったのか、そう口を開こうとしたとき、さらに後ろから飛んだ声が、彼女の発言を止めた。
「おい……光貴はどこだ!?」
 濃い焦りをにじませた、ラッセルの叫び。顔をこわばらせた晴香は、慌てて祭壇と石碑の方を見やる。
 光があふれる前、自分の隣――石碑の前にいたはずの兄の姿は、どこにもなかった。
 
 
      ※
      
      
 美雪は、宿の一室の扉を開けるなり、きょとんとして目を瞬いた。本来、大人数が詰めかけているはずの部屋にいるのは、三人の少女たち。彼女らは美雪に気づくと、会釈をしたり手を振ったり、それぞれのしぐさで出迎えた。彼らに軽く言葉を返したあと、美雪は部屋の隅に荷物を置いて、少女の中では最年長の『慈悲姫』を見やる。
「メリエル。うちの子と王城組はどこ行ったの?」
 婉曲な表現で、ここにいない四人の行き先を尋ねると、メリエルは首をひねった。
「朝のうちに、出かけてくると言い残してどこかへ行かれましたわ。行き先については、聞いていません。……いえ、正確には、教えていただけませんでしたわ」
 嘆息まじりの答えに、美雪は目をみはる。それから、残る二人の少女を見もしたが、彼女らも首を振るだけだ。
 奇妙なことだ。同行者にすら最低限の言づてを残さず出ていくとは。あの四人が、何か怪しいことをしでかすようにも思えない。美雪は眉をひそめる。かつて、『解放軍』の戦士として前線に立ち、『神聖王』の妻として王城内に身を置き続けた女の勘が、鋭く警告している。
「本当に、ほかには何も聞いてない?」
 美雪が慎重に問えば、寝台の上で座りこんでいるミーナ・コラソンが、そろりと手をあげた。
「そういえば……ピエトロとの国境のあたりが、どうとかって」
「国境?」
 ミーナの言葉を反芻し、美雪は考えこんだ。トルキエとピエトロの国境付近。その一語を頼りに、記憶と情報をたぐっていた彼女はやがて、あるひとつの答えに行きあたる。
 心臓が、凍りついた気がした。
「まさか……っ!」
 黙考しているうちに下がってしまっていた顔を上げ、美雪は驚いている三人を見渡した。
「ねえ。ノエルくんって、守護天使の継承に関わったことがあるの?」
 美雪が険しい声で問えば、三人は視線をかわしあう。ミーナとリリスが自然に年長者を見やり、その年長者はかぶりを振った。
「私のときもアレクのときも、彼が顔を見せたのは、継承してからかなり経った頃でしたし……けれど、ミーナとフレイのときは少し挨拶に来ましたわね。まだ『預言者』としても若いですから、あの頃は余計に、積極的な関与ができなかったのでしょう」
 メリエルが、不信感と懐かしさを織り交ぜて語る。
 最後まで話を聞いた美雪は、挨拶だけか、と毒づくなり、踵を返した。少女たちの声が、彼女の名を呼ぶ。美雪は扉を開けながら、振り向きもせずに叫んだ。
「あいつらのところに行ってくる!」
「い、行ってくるって、どうして」
 外に転がり出たとき、ミーナの問いが飛んでくる。美雪は扉の取っ手に手をかけつつ叫んだ。
「早く止めないと大変なことになるから!」
スポンサーサイト

KOLおつまみ更新8

2017.06.09 06:26|小説・詩
おはようございます、七海です。
危うく一か月更新なしになるところやった……恐ろしい……。と、前回の記事を見て震えていました。

またぼちぼち絵を描きはじめましたが、まだまだ漫画には手がつきません。ううぬ。
とりあえず、サイトの方では「風の章」の更新を頑張ってから、後のことを考えたいと思います。カクヨムさんでは、しちみ名義でもりもり更新しているので、興味のある方は見にいってやってください。
とりあえずKOLの続きです。ご来訪、ありがとうございます。

本家はこちら。
http://ncode.syosetu.com/n3552bw/


 今日の空は穏やかだ。薄い青のなかを、ひつじ雲が静かに泳いでいる。冷たい風に吹かれた光貴は、そっと、嘆息した。
 左右へうねりながら続く道には、人の姿は見かけない。ラッセルによれば、商人などが利用する主要な街道は別のところにあるらしい。ここはあまり知られていない道なのだ、とも、言っていた。「でも、そのわりにはきれいだよねー」と、土くれを軽く蹴りながら晴香が言うと、ノエルは唇に指をあてた。
「王城の関係者が定期的に来るからだと思います」
 兄妹は納得して、顔を見合わせる。それから光貴は、何気なく前を見て、声をあげた。道が急に細り、そのむこうは反対に、大きくひらけた大地がある。岩山のようにそびえたつ石窟が、青くかすみ、たたずんでいた。
 光貴がその場を見ていないことに気づいたラッセルが、彼の視線を追いかける。それから、ああ、とうなずいた。
「やっと見えた。あれだよ」
 静かな声がその場に漂う。誰からともなく足早に歩きだし、細道を抜けた。
 うわ、と、少女の声がささやく。白く、大きな石窟が、壁のようにそこにあった。あたりに装飾などはなく、人の手がほとんど入っていない緑に囲まれて、どこまでも静かにきたる者を出迎える。ふつうの人にはただの巨大な洞にしか見えないだろう。けれど、光貴は感じていた。その石窟の、唯一の入口から、どこまでも澄みきった『天使』の力が漂ってきていることに。風のような、霧のような力の気配は、光貴が己の中に飼っている熱とよく似ている。――死してなお、『王』や『姫』は力を残し続けているのだ。
「これが……『聖墓所』か」
 白い岩を見上げて、光貴は静かに呟いた。
 誰もが言葉もなく見入っていたが、ややあって、ノエルが一番前に出た。いびつな穴の前に立ち、目を閉じる。そして、突然に膝を折って顔の前で手を合わせると、小声で何事かを呟いた。ピエトロ王国に伝わる祈りの言葉だと、光貴たちはのちに知ることとなる。『預言者』の少年は祈りを終えると立ち上がり、後ろで待っていた三人を振り返った。
「では、行きましょうか」
「え? 中、入っていいの?」
 晴香が慎重に尋ねると、ノエルは悪戯っぽくほほ笑んだ。なんとなく不安になった光貴がラッセルをあおぐと、彼も無言でうなずく。この二人がいいというのなら、と、光貴と晴香も受け入れて、石窟の中へと踏み出した。
『聖墓所』の中は、予想どおり暗くて、ひんやりしていた。石壁そのものが、冷気を放っているのではないかと錯覚する。光貴は大きく震えた体をなだめたあと、『聖墓所』内部を観察した。
「これ……」
 彼の眼には、そこがとても奇妙な空間に映った。
 四人がぎりぎり入れるか否か、というくらいの狭い場所に、白い祭壇と小さな石碑が置かれている。たった、それだけの場所。そして、壁際には穴が穿たれていて、そこから冷たい風が吹きこんでいた。穴をふさぐ鉄格子が、風を受けてやかましく揺れている。
「穴の先には遺体が収められていますから。決められたとき以外は、立入禁止です」
 鉄格子を軽く揺さぶり、ノエルが言う。光貴と晴香は少年の解説に聞き入ったあと、そろりと祭壇の――石碑の方へと身を乗り出した。よく見ると、表面には細かい文字がびっしり彫りこまれている。そのひとつひとつを観察している余裕はなかったが、一番下に知った名前を見いだした二人は、息をのんだ。
――ジェラルド・ルチアーノ。
 今まで馴染みの薄かった父の名前が、不思議なほどにあっさりと、心の中にしみこんでくる。
「よく見るのはいいけど、汚したり壊したりするなよー」
 後ろから、ラッセルの軽薄な声が飛ぶ。それに「わかってるよー」とおどけて返す妹を一瞥した光貴は、それからまた、石碑を見た。文字を目で追っているうちに、きん、と頭の奥で何かが響いたのに気づく。
「え……?」
 思わず、こめかみを押さえた。幻のようだった音は、その頃にはもう、幻ではなくなっていた。
「お兄ちゃん?」
 呼びかけの声すらも、おぼろげだ。きん、と、高い音が、頭の中で不規則に響く。
 音は、やがて、拍子を刻みはじめ、少年は、その拍動に合わせて――つ、と石碑に指をのばしていた。
 隣にいた晴香が怪訝そうにしたことも、背後のノエルが顔をこわばらせたことも。何一つ、知らぬまま、光貴の指は淡々と、石碑の文字をなぞってゆく。
 次の瞬間、全身に熱が満ちて――『聖墓所』内を、強烈な白い光が包みこんだ。
| 2017.06 |
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -
カテゴリ

新しい欠片

月別の欠片

最新コメント

プロフィール

蒼井七海

Author:蒼井七海
なんか周りにオタクといわれてしまう社会人見習い。
少年漫画、ファンタジー、ネコが大好き。中学生の頃から息(だけ)長く創作サイトの運営やらなんやらしながら、漫画家を目指しています。
どうぞよろしく。

お客様

繋がる欠片

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR

ページトップへ